橋下維新の大阪都構想がもたらすもの=住民サービス切り捨て・ワーキングプア増加・人口減少と東京一極集中の加速

  • 2015/11/19
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安倍政権や橋下維新の「地方分権・道州制」「地方創生」とは? さらなる東京一極集中と強権政治=沖縄辺野古新基地建設強行の住民自治破壊が当たり前の日本になる」「大阪都構想→関西州→道州制=「究極の構造改革」で貧困と格差が極まる戦争遂行装置|岡田知弘京都大学教授」に続く、岡田知弘京都大学教授インタビューの一部です。(※2015年3月に収録したインタビューです)

安倍政権の「地方創生」は道州制へのワンステップ
――国民の暮らし切り捨てる「自治体消滅」論の罠
岡田知弘京都大学教授

「地方創生」は道州制への迂回路としてのワンステップ

 ――いま安倍政権は「自治体消滅」論などとともに「地方創生」を掲げています。この「地方創生」というのはどういったもので、安倍政権の狙いは何でしょうか?

安倍政権から「地方創生」という言葉が出てくるのは昨年の夏段階です。その前の5月8日に、増田寛也前総務大臣が座長になった日本創成会議というところが、かなりショッキングなレポートを発表しました。2040年までに、日本の自治体の約半数が消滅する可能性があるというものです。同時に、すべての対象自治体名が数字と共に公表されました。そして全国紙、地方紙問わず、マスコミがセンセーショナルに報道した。この地方消滅論は昨年8月末に中央公論社から出版されました。この本のタイトルは『地方消滅――東京一極集中が招く人口急減』で、帯には「896の市町村が消える前に何をすべきか」と大きく書かれていて、896の市町村が消えることを前提にして何をすべきかという政策論を考えるべきだとしている。これが、今年1月段階で16万部売れています。昨年の新書大賞にも選ばれ、大きな影響を与えました。

これに対し、安倍政権は自分たちは地方を第一にしてやりますよと表明したわけです。9月の内閣改造の時には、大変な党内実力者である石破茂氏を地方創生担当大臣に据え、「地方創生国会」という名前をつけて秋の臨時国会を召集しました。

一般新聞はこれを少し冷めた目で見ていましたね。「創生」という言葉は、ちょうど竹下内閣の時の「ふるさと創生」で1億円を各自治体にバラまいたということが想起されるようなものですが、これも統一地方選挙に向けた対策なんじゃないか、という見方が比較的多かったです。私もいくつかのマスコミから取材を受けましたが、確かに短期的にはそういう目的もあるかもしれないけれど、それだけではないんじゃないかと言いました。特に私が注目したのは、この前の総選挙の解散日程です。当初は11月19日と言っていましたが、地方創生関連法が通過するのに、まだ2日間必要だった。そこで、この関連法の成立を待ってから解散ということで21日解散になったんです。

自民党の「政権公約2014」には、こういうことが書かれています。「道州制の導入に向けて、国民的合意を得ながら進めてまいります」。これは、2012年の総選挙のマニフェストと比べ、曖昧化されています。期限が設定されていないのです。国民的合意のためにはかなり時間がかかるだろうという認識があることが分かります。

その次が問題です。「導入までの間は、地方創生の視点に立ち、国、都道府県、市町村の役割分担を整理し、住民に一番身近な基礎自治体、市町村の機能強化を図ります」という文章が続くのです。これは、道州制導入までの間は「地方創生」だと言っているのですね。つまり、道州制に向けてのワンステップが「地方創生」であるという意味です。

しかも、その間に何をやるかというと、地方分権改革の議論をしっかりとやりますよと謳っています。その際に基礎自治体の機能強化をするとしています。私が注目したのは、広域自治体としての都道府県のあり方に関して触れていないということです。むしろ権限や財源をどんどん削減し、基礎自治体の方に下ろしていくのではないか。そして、この機能強化を図る受け手は、今の市町村ではなく、もっと大きな広がりの基礎自治体ではないか。ただし、合併というものは強行できないので、「増田レポート」の中に書かれている「地域の拠点都市圏をつくっていく」「人口最低20万から30万人以上」という中心都市の回りに小さな町村を配置していく必要性を訴えたのではないか。そうした拠点都市に行政機能、経済的機能、行政サービスも集中させ、「選択と集中」を国土上につくっていくということが、「増田レポート」には書き込まれていて、そうした流れをつくろうとしているのではないかと思うのです。

石破地方創生担当大臣の仕事はあまり知られていませんが、「地方創生」という分野だけではなく、彼は地方分権改革担当大臣でもあり、国家戦略特区担当大臣でもあります。さらに昨年9月に安倍首相から受けた指示は、道州制導入に向けた検討をしてもらいたいということでした。これは安倍首相自身が記者会見で言っています。私から言えば、一番ハードな改革を秘めた上で、まずは選挙を考えながら「地方創生」ということでアメを与える。たとえば来年度予算では、総務省地方交付税の地方創生枠で5,000億円上積みしますよと言っています。そうやって道州制に向けた基盤整備をやっていくということが真の狙いではないか。

結局、道州制推進基本法という直球をいくら投げてもなかなか国会上程できないから、変化球で迂回路をつくって道州制に近づけていこうという戦略に変えたというふうにみることができるのではないかと思います。

国家戦略特区と「地方創生」

国家戦略特区そのものも「地方創生」と関係しています。先ほどの「政権公約2014」を見ていくと、国家戦略特区の中に地方創生特区を入れ込んでいくと書かれています。これはどういう意味なのか。

「地方創生」という言葉自体、私はとても気に入らないのですね。なぜかというと、地方というのは中央に対する対概念です。あるいは東京に対して、それ以外の地域という意味で、いわゆる上から目線の言葉だと思うのです。

しかも、「増田レポート」でも最大の問題の一つとして取り上げられている少子化問題は、大都市部で最も深刻な問題なのです。

▲図表7を見てください。内閣府が年収別、雇用形態別の既婚率を調べています。非正規雇用の30代男性で5.6%、正規雇用では29.3%です。年収では300万円未満の30代男性で9.3%。つまりちょうど第1次安倍政権の時に問題になったワーキングプアで、彼らが非正規雇用の形態しか選ぶことができず、結婚して子どもをつくったり、安定的な所得や雇用に就いたりできていないということです。私は、これが実は一番大きな少子化の原因ではないかと考えています。この層が一番分厚く存在しているのは東京だし、大都市部です。だから、少子化問題は大都市の青年問題なのです。ここを完全に安倍政権は避けている。そこに一つの問題があります。

もう一つの問題は「創生」という言葉です。「新しくつくる」という意味です。私は、本来やるべきは大都市も含めての地域の再生ではないかと考えています。なぜ地域が衰退してきたのかということを考えると、一つは経済のグローバル化ということで、どんどん工場が海外に出て行ったためです。これが1986年の前川レポート以降、特に貿易黒字を生み出した自動車と家電産業で顕著でした。地方の工場を閉鎖して、海外に出て行く。その代わりに輸入がどんどん増えていきます。1991年にバブルが崩壊しても、貿易自由化ということで農産物輸入も増えました。そこで何が起きたかというと、製造業や農業を基盤にした地域産業が衰退したのです。

▲図表8は、1995年から2000年までの日本列島の人口の増減です。黒が人口増ですが、白いところが多いですね。ここは、郡部、町村部、地方小都市です。結局、経済のグローバル化の中で大きな経済後退を余儀なくされた。人口扶養力が失われていったのですね。その結果として、地域の人口が減少していく。そして2000年代に入ると構造改革の中で非正規雇用が増え、結婚することもできない若い人が増えてしまいました。

規制緩和で外から新たな力を入れる=「創生」

こうした中でやるべきことは、地域の経済主体の再生の力をつけていくことです。ところが「創生」という言葉を使っています。これは国家戦略特区でも、あるいは東日本大震災の時の震災復興特区の考え方にも通じる言葉です。既存の農家や中小企業を大事にするのではなく、外から新しい力を規制緩和で入れていきましょうという意味です。

今、国家戦略特区で全国6地区が指定されています。たとえば新潟では、ローソンが農場をつくり、農業生産法人の規制緩和の利益を受けて第2次産業の加工場をつくり、第3次産業の販売施設をつくろうとしている。これらをつくる際は農地法の規制緩和を受けています。通常、農地をそれ以外の用途に使う場合には転用許可が必要で、農業委員会がそれを審議するのですが、それをやっていては時間がかかるから市長決裁で行えるようにしようということです。ということで、農業委員会制度も実質解体、機能解体しながら規制緩和をしていくという事態になっています。今までの農家ではなくローソンという外からの企業が、農業や製造業、販売といった6次産業のところで利益を得ていく。これは兵庫県養父市の特区でも行われています。ここでは、中山間地域の遊休地を活用するということで、養父市長がかなり暴走する形で国家戦略特区の指定を受けました。実際に入っているのはオリックス不動産やヤンマーやクボタです。

あとは医療や労働規制の緩和ですね。そういうものを大都市圏で活用していこうとしています。「地方創生」に向けて特に大都市で何をするかといえば、地域包括ケアです。医療と介護の一体改革の中で、民間化しようという動きが出てきています。そういうところに外国の資本も含めて参入できるような規制改革を入れていこうとしている。具体的には、中学校区ごとにその市場を提供していくような仕組みをつくっていくことが考えられています。

日本経済新聞に面白い記事が載っていました。今年2月13日付の夕刊です。オランダの介護企業、在宅介護大手がアジア進出を考えている。そうした形で、中国や韓国もそうだと思いますが、高齢化が一気に進むアジアに市場性を見出し、多国籍企業が入り込んでくるということです。こういうことをやっていく際に、地方自治体や国の関与をできるだけ減らすことによって、いわゆる市場化をしていく。これが成長戦略だというのですね。これを国家戦略特区の中でまずつくり出し、全国に広げていくというのです。

この話を聞いていたら、TPPと同じじゃないかと連想されますね。まさにそうです。TPPというのは農産物の貿易自由化という狭い範囲の話ではなく、医療介護、高等教育、あらゆる法制度にわたって各国の個性に合わせた形でつくり上げてきた制度を根底的になくし、アメリカやオランダの企業が自由に入り込んでくる仕組みにしようというものです。その中には労働に関して解雇自由の国がありますから、そういうものが入ってきたとしても比較的スムーズに雇用関係を結んだり切ったりできるように、国家戦略特区には雇用労働相談センターが設けられます。労働者のためではなく、解雇を考えている企業のためにそれをつくり出すという、そうした公務の仕事の作り替えまでされてきています。

今後は外国人の自由な流入もTPPの中で議論されてきます。公共分野との関係でいえば、政府調達項目がありますよね。これは公共投資だけではなく、物品やサービス発注にも関わるものです。今のTPP加盟国ですでにこの政府調達項目があって、工事で6億円以上、物品やサービス発注は630万円以上の場合、TPP圏域内企業に対して平等な国際調達が義務づけられているのです。そうすると、今のWTO協定による国際調達の最低基準額よりも遙かに下がってしまうのですね。小さな自治体でもそれくらいの発注をする必要があります。それをきちんとやらないとTPP協定違反で国際法廷に訴えられてしまう。そこで有罪判決を受けてしまうと、その政策は取れないし、条例は廃止しなければなりません。しかも、賠償金を支払うことになってしまいます。結局、国家主権も地方自治権も否定されてしまう。そういうTPPに入るための地ならし的な役割を、国家戦略特区を使った「地方創生」が担う一つの役割として考えているのではないかと思います。

その中で、現在、「地方創生総合戦略」が国レベルで決められ、今度は地方自治体に、来年度の策定が義務づけられます。今回の大きな問題は、政府の方針に沿った形で数値目標を各自治体が掲げ、その進捗状況次第で地方交付税等の金額を変えていくということです。「がんばる地方自治体」により多くという仕組みをつくっているわけです。では一体誰が、がんばっている地方自治体ということを判定するのでしょうか。あるいはどういう客観基準なのか。それは不明確のままなのですね。

地方自治体に必要なのは、むしろ自由に使える交付金です。たとえば三位一体改革の前の額まで戻していくことになれば、じつは正規の公務員をたくさん雇うことができるのですよ。正規の公務員を雇えば人口を増やすこともできる。国土も守ることができる。あるいは住民サービスを守ることができる。一番いい効果です。しかしそれを避けて、結局何をやるかといったら、国家公務員の派遣や、ふるさと協力隊の増員です。それもすべて3年とか5年とか期間が限られている。果たしてそういう形で、地域で経済も社会も再生していくのでしょうか。私はそうはならないと思います。

大阪都構想で住民の暮らしは向上しない

 ――次に大阪都構想については、どんなふうに見ているでしょうか。

大阪都構想というのは、橋下徹氏が大阪府知事になる時から言ってきた話ですが、道州制によって関西州をつくるのだとずっと橋下氏は言ってきました。

▲図表9は、橋下氏が大阪府知事時代に描いていた工程表です。分権と集権とありますが、集権の方から見てみましょう。ここでは、最終的には平成30年度に関西州を実現していくと考えています。そのための準備として何をやるか。1つが国の出先機関の見直しです。一番強く出先機関改革を求めてきたのが大阪だったのです。そして関西広域連合を同時に設置する。関西にある府県と政令市が中心になって広域連合をつくり、さらに国が出先機関改革をすすめることと並行して、その機能を受け入れ、分権をはかっていく。それを経た上で関西州に移行するということを考えていました。

もう1つは分権ということですが、ここには市町村への権限移譲というものが入っていますね。大阪府から市町村へ。ただし、これはその時にある市町村ではありません。右側に「府内市町村が中核市に」と書かれてあります。中核市というのは当時、人口30万人以上です。

ところが大阪は「平成の大合併」が一番進まなかったところなのです。堺市が政令市になるために美原町を合併したのがあっただけで、今も町や村が残っています。これではいけないということで、すべてを中核市、30万人に再編するということが、じつは念頭に置かれている。そこに分権していくということです。

30万人というところには大阪市もかかっています。大阪市を分割して、24ある区を5つの区に分けていく。問題は、州の中心部は大阪でなければならないということです。さらに図表9の中央部にある「新たな大都市制度の実現」という項目に注目してください。関西州の中心として大阪府と大阪市が一体となった新たな大都市制度、大阪都が必要だという議論につながります。

さらに▲図表10の地図がとても象徴的です。関西州ができたら一体どれだけのことができるのかということで、京都府をはじめ各府県から財源を集めます、人も集めます、そうしたらこれまでできなかったものができます、ということが書かれてあります。「現在は整備主体が多岐に分かれて関西全体の視点で整備の優先順位が決定されていないことから、環状道路に未開通区間があるなど、総合的なインフラ整備に支障が生じています。空港、港湾ごとに設置管理者は異なり、統一的、戦略的な施設運営がなされていない。ところが、関西州ができたら、州の下でまさに全体の視点から優先すべき整備箇所を決定することができるし、空港港湾の戦略的運用もできます」、という論理です。

図表10の左側の地図で太い線が高速道路。そしてその上にある、空港、さらに港湾、これを一体経営したいということが描かれている絵です。私がここで、やはりそうだったのかと思ったのは、大阪府域しかこの地図には入っていないということです。京都府も一部しか入っていません。滋賀県、奈良県もほとんど入っていない。和歌山県も北の縁だけ。兵庫県も阪神地域しか入っていません。つまり、周辺部の自治体にある財源、人材を、「選択と集中」ということで大阪都に集めてくる。そこで開発の財源を獲得していく。これが一番やりたいことなのですね。

▲図表11は近畿6府県と大阪市の歳出規模などを見たものですが、大阪府の歳出決算額が2兆8千億円、兵庫県が2兆1880億円です。大阪市は1兆5千億円もある。大阪府市一体でかなりの金額になるわけです。

今回の大阪都構想を巡る住民投票は、大阪都をつくるという住民投票ではありません。今の地方自治法では、都をつくる際には地方自治法を抜本改正する必要があります。東京都をつくる際にもそういう形でやりましたし、区議会を公選で選ぶことについても地方自治法の改定が必要でした。今回はそういうものではありません。政令市を区に分割していく、そして大阪府の下に置くということを巡る投票なんですね。

今、橋下大阪市長が考えているやり方は、大阪市が持っている財源をいったん府にすべて集中した上で、区に関わる財政的なものを再分配していくというものです。そうなれば、開発財源は大阪府の方に集中していきます。大規模投資が可能になる。これを使って、彼らはカジノやリニア誘致をやっていきますよと言っているのですね。けれど、他方では市民向けのバスサービスを削減したり、地下鉄を民営化したり、様々な市民への便益の削減をしようとしている。住民生活の向上という点でいえば、極めて問題のある改革です。

もう1つ問題なのは、住民自治という視点です。区に関わって住民の参加度が低いからということで、そういう住民の市政参加を高めていくという幻想が言われています。これもおかしな話なんですね。地方自治法が改定されて、たとえば大阪市議会で選出区ごとに特別委員会を設けることができます。もっと進んだところでは、新潟市などが政令市になって自治協議会を区単位でつくりました。そこへは市民代表の委員が議員とは別に公募で入っていける。そういう形で住民の参加を促し、住民自治の機能を高めていくことは十分可能です。しかし今の枠組みでは、市議会がなくなったら区議会議員の数は市議会の現状議員定数を上回ることはない。そうなると、市民の住民自治としての声を反映するような議員も出なくなってしまう。それは住民自治の後退です。団体自治としての大阪府の開発権限が高まることは確かです。しかし、それがどういう使い方をされるでしょうか。

実は、関西新空港は関西の地盤沈下のために必要だということで1兆円近く投資されて建設されました。京都府や京都市もお金を出していますが、1兆円も出したら大阪や関西は活性化すると語られました。ところがむしろ大きく衰退してしまいました。なぜでしょうか。じつは、関西新空港は日米建設協議の中で初めて国際入札された空港だったのです。関西の資本も参入が極めて難しく、結局アメリカやヨーロッパの企業が受注している。鉄鋼やセメント関係の多くは、東京に本社を置く資本が受注しました。地元に残ったのは借金だけだったのですね。だから大阪府も、足元の泉佐野市も、史上最悪の財政危機に陥ってしまった。ですから、大規模投資をしても、発注先にチェックを入れない限り、地域経済に還元されることはないのです。

道州制で東京一極集中が加速する恐れも

▼図表12は大変興味深い表です。複数事業所を持っている企業のうち、東京に本社がある企業は各府県内にどれだけの雇用を持っているのか、というのを東京以外のところと比較してあります。

大阪府を見てください。大阪府内企業の比率は47.3%ですが、東京都に本社のある企業で働いている人の割合は36.1%です。この間、2000年代初頭に金融ビックバンが行われ、住友や三和グループがなくなりました。本社機能が東京に移ってしまいました。そうすることによって、東京の集中度と地方支配度が高まっていく。だからいくら地方で大規模公共事業をやっても、道州制推進論者が言うように、地域の再生につながることは保証の限りではないということです。むしろ東京に富が集中していく仕組みになる可能性が大きい。兵庫県を見ると、じつは東京系企業の比率が高い。こういうことにもなっています。

先ほど関西広域連合の話をしましたが、今、奈良県は広域連合に入っていません。奈良県は、かつて苦い歴史の経験を持っているのです。

どういうことかというと、明治維新の後の廃藩置県で奈良県ができました。ところが途中で奈良県が廃止され、堺県という、大阪の県と一体化されてしまったのです。県庁が消えてしまった今の奈良市は、大変な衰退ぶりだったといいます。その際の地方自治の担い手だった旦那衆が、県庁を取り戻す運動を始めていくのです。そして奈良公園の造成や鉄道敷設をして観光産業の振興を図っていく。そうやって苦労して奈良県はもう一度再建していくのですね。

関西広域連合は、橋下氏が言うように、関西州へのワンステップになります。井戸兵庫県知事はこれに対し、「関西広域連合出発にあたって、ワンステップではないということを確認した上で自分たちは入った」と言っています。しかし大きなプログラムでいえば、一端入った限りはそちらの方の流れが強くなることは非常にはっきりしたことです。そういう矛盾を抱えています。(※注:3月6日に荒井奈良県知事は次期県知事選挙を前に、道州制移行への心配はないとして、関西広域連合に部分参加することを表明しました)

もっと象徴的なのは▲図表13です。大阪府が橋下府知事のときに市場化テストを国に倣ってやったのです。国の場合は、民間がやる場合と厚生労働省がやる場合でコスト比較をしていますが、大阪府はコスト比較をしなかった。いきなり民間事業所を指定しました。税務窓口業務から始まり、府立図書館業務などです。税務窓口業務はどこが受注したかというと、アデコです。これはスイスに本社のある人材派遣の多国籍企業です。あとはユーフィット。これは旧東海銀行系の経理会社です。こういうところに丸投げをする。ここで働いている人たちも、当然、非正規雇用ですよ。図書館も同じ。図書館の方は、図書館流通センターというところが受けました。ここは丸善と経営統合したCHIグループ。親会社は大日本印刷です。出版不況の中で、出版、印刷、図書館のサービスまで一体的なサービスを開発して、売り込みに行った。それが受注したのです。

私は、こういうものに一つの道州制、あるいは関西州が目指すものが表れていると思っています。このようなものを関西全体で実現してしまうと、住民の暮らしはさらにひどい状況になってしまうと思います。
それにしても、今回の住民投票の実施は一種のクーデター的な動きでしたね。総選挙が確実になった時に、橋下・松井両氏は、公明党が立つ選挙区で自分たちは立つんだと脅しをかけました。ところが途中で引っ込んだ。それが何を意味したかということが、選挙後に明らかになりました。結局、公明党の党本部が安倍政権の中で妥協し、住民投票までだったら認めるという方針に大転換したのです。このことによって、今、大阪府内の公明党も自民党も大混乱をきたしています。勝手に安倍氏と橋下氏が野合をしたわけです。その目的ははっきりしています。一つは、道州制推進のワンステップとして、関西州の実現をはかる。大阪都構想がその際にコアになっていく。大阪都構想を道州制への布石として打つ必要があったということです。

また、後に橋下氏が言っていますが、これは憲法改定のための国民投票のための予行練習だというのです。おそらくマスコミも動員しながら、多数派を得るためにはどういう宣伝活動が必要なのかということを、住民投票という形で実験するのだと思います。もしそこで賛成派が過半数を取るようになってしまえば、今まである程度止まっていた道州制への動きが再活性化する。さらに、憲法改定への動きが加速する。そういう非常に重要な歴史的意味をもった住民投票になるのではないかと思います。

▼インタビューの一部を視聴できます。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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