資生堂ショックは一種のマタハラ=アベノミクスで過去最少になった子どもの数をさらに少なくし日本の労働生産性も経済成長も損なうもの

  • 2015/11/10
  • 資生堂ショックは一種のマタハラ=アベノミクスで過去最少になった子どもの数をさらに少なくし日本の労働生産性も経済成長も損なうもの はコメントを受け付けていません。

「子育て中の美容部員に、役員が制度に甘えるなと警告」して、「子育て中の女性社員にも平等なシフトやノルマを与える」という「資生堂ショック」。これは世界の流れに逆行するものです。

すでに日本社会の現状の一端を「家事労働ハラスメントで世界一短い睡眠の日本女性、フランスの2倍超える世界一長時間労働の日本男性」や「子ども持つ女性に世界最悪の賃金差別=男性のわずか39%、OECD30カ国の女性平均賃金の半分しかない日本、「妻付き男性モデル」と「養われる妻モデル」の異常な2極化」で紹介しましたが、日本は激しく女性差別をすることで経済成長をも損なっている国です。そして、男女あわせ世界で最も長時間労働を強いられているため働きながら安心して子どもを育てられません。その上、「保活」に見られるように公的保育サービスも劣悪です。下のグラフは、OECDによる「公的保育サービスが低いと女性差別賃金が激しい」ことを示すものです。グラフのヨコ軸は、公的保育サービスの利用率で、タテ軸は女性差別賃金の高さです。まさに日本は公的保育サービスが劣悪で女性差別賃金が激しいのです。

男女ともに長時間労働を強いられ安心して子育てする時間もなく、公的保育サービスも劣悪となれば、当たり前ですが子育ては不可能です。直近の2014年の合計特殊出生率は9年ぶりに前年を下回り、1.42となり、昨年生まれた子どもの数は100万3,532人で過去最少を更新。40年前の半分です。2015年版の「厚生労働白書」は「人口減少社会を考える」として以下のグラフを示しこのままでは「人口減少が加速していく」としています。

一方、北欧諸国等は日本とは真逆の道を歩んでいます。

 

「新3本の矢」と出生率

「スウェーデンの合計特殊出生率は1・94(2009年)。日本は1・37だ」-。福祉関連の仕事をしていて、北欧の福祉事情を視察し、戻ってきたばかりの知人のメールが目を引きました。

○…メールには、産休と育児休暇、給与補償などが充実しているスウェーデンの実態が。母親の場合は産前50日、産後60日の産休取得、父親は60日の取得が義務付けられています。出産10日前から子どもの8歳の誕生日までに、両親合わせて最大480日の育児休暇を取得することができるといいます。父親母親問わず390日間は、休業直前の所得の80%を補償。これらの少子化対策が功を奏しているようです。

○…一方、日本の場合、父親の育休取得率は2・03%。待機児童も5年ぶりに増加しました。年少扶養控除の廃止に伴い、多子世帯の保育料が数倍に跳ね上がった問題も噴出しています。

○…そんな中、安倍首相は「新3本の矢」で「夢を紡ぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」を挙げ、希望出生率1・8の目標を打ち出しました。諸制度の改悪で子育て世代を苦しめているのは他ならない、安倍自公政権です。中身を伴わない言葉を踊らせて戦争法強行の批判をかわそうとしても、多くの市民が見抜いています。

【「しんぶん赤旗」2015年10月8日付】

そして、いま話題の駐日デンマーク大使館のツイートです。


そして、今回の「資生堂ショック」を報道した昨日のNHKニュースのアナウンサーの最後のまとめの言葉が以下でした。

和久田「一見厳しい改革のようですが、子育て中の社員の生産性を上げることで会社の業績アップにつなげようということなんですね。」

阿部「現在、多くの企業が子育て支援制度を導入していますが、運用を進めていく中で、職場では不公平感が広がり、現場の士気が下がってしまうこともあるといいます。専門家は今後、多くの企業が資生堂と同じような問題に直面すると指摘しています。」

日本経済新聞の報道も「育児中の優遇が既得権益化し」「充実したはずの制度が逆に士気後退につながる」などとしています。

この論理は前提から間違っています。そもそも日本は先進主要国で最も女性差別が激しく子育て支援が不十分であることが根本的な問題なのです。(→「子ども持つ女性に世界最悪の賃金差別=男性のわずか39%、OECD30カ国の女性平均賃金の半分しかない日本、「妻付き男性モデル」と「養われる妻モデル」の異常な2極化」「家事労働ハラスメントで世界一短い睡眠の日本女性、フランスの2倍超える世界一長時間労働の日本男性」)

さらに、いまはマタハラが増加しているなど、NHKが言うのとは逆に子育て支援が不十分だから日本の社員の生産性が下がっているのです。(→「年々増加するマタハラに加え「マタハラ合法化法案」である派遣法改悪狙う「安倍マタハラ政権」は女性労働者の敵」)

日本の常識は世界の非常識とよく言いますが、日本の常識は男女ともに長時間労働で厳しいノルマ達成を目指せば経済成長する、そこからはずれて子育て支援され短時間勤務などで長時間労働をこなせない子育て中の甘えている人間は経済成長を損なうものだ、というものなのでしょう。だから、長時間労働をしない子育て中の人間がハラスメントされるのでしょう。

しかし、世界の常識はそうではありません。2014年4月に東京でOECDが開いた「OECD日本加盟50周年記念シンポジウム」で、アンヘル・グリア事務総長は、日本の女性の働き方について「日本政府は改善に動かなければならない」として、「①労働参加率が低い、②賃金が男性と比べて27%低い、③非正規の約7割が女性、④労働環境が男性に有利になるようつくられている、⑤しかも育児だけでなく、家族の終末期の面倒も見なければならない。女性の6割が子どもが生まれたときに仕事を辞めている、⑥日本政府が保育所などの就学前の施設に国内総生産(GDP)のわずか0・4%しか予算を投じておらず、デンマーク、フランス、スウェーデンの予算の3分の1だ指摘しています。

そして客観的な数字を見ても、日本の常識は間違っていることが分かります。下のグラフと数字は、時間当たりの労働生産性の国際比較です。日本は世界一の長時間労働を強いて女性差別をした上で、OECD平均より労働生産性が低く、ノルウェーの労働生産性の半分以下です。

それから下のグラフは一人あたりのGDPの推移です。黒の折れ線がOECD加盟国の平均ですが、日本は平均よりも低くなっています。1993年にはOECD加盟国平均や北欧諸国よりも日本は上でしたが、今では最下位になってしまっているわけです。

先進主要国の中で最も公的な子育て支援がなく、職場においてマタハラの横行など女性差別が激しく、男女ともに長時間労働の日本は経済成長も損ない、逆に公的な子育て支援が十分になされ、男女平等で男女ともに残業もなくしている北欧諸国等の方が経済成長しているのです。資生堂はもともと化粧品製造ラインのリーダーを偽装請負のうえ解雇したブラック企業ですが、今回の「資生堂ショック」も女性が働きながら安心して子育てができるようにしていくという世界の流れに逆行するものだと思います。資生堂は子育て支援を受けるのは甘えだと言って厳しいノルマを課すのですから、一種のマタハラなのではないかとも思います。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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