国家公務員の1%にすぎないキャリア官僚の賃金だけ槍玉にあげハローワーク職員の6割占める「官製ワーキングプア」は一切無視するマスコミと人事院勧告の異常

  • 2015/8/7
  • 国家公務員の1%にすぎないキャリア官僚の賃金だけ槍玉にあげハローワーク職員の6割占める「官製ワーキングプア」は一切無視するマスコミと人事院勧告の異常 はコメントを受け付けていません

昨日(8月6日)、人事院勧告が出されました。マスコミは、「国家公務員給与 2年連続の引き上げ勧告」などと報道していますが、正規の国家公務員の生活改善につながらないだけでなく、非正規の国家公務員(非常勤職員)の「官製ワーキングプア」というべき劣悪な処遇を全くかえりみないものです。

そのことを、全労働大阪基準支部がツイートで次のように指摘しています。

上のツイートで指摘されている45歳で年収1千万円を超える本省課長級以上のキャリアは、一般職国家公務員全体約26万6千人の0.98%(2千6百人)にすぎません。民間企業の0.98%で考えてみてください。一方、下の表のいちばん下の欄に、日本のハローワークの職員数が出ています。

 

上の表にあるように、日本のハローワークの全職員数は2万9,424人で、そのうち1万7,563人が非常勤職員です。ハローワーク職員の6割が「官製ワーキングプア」状態に置かれているのです。

マスコミは、国家公務員のたった0.98%にすぎないキャリアの賃金を槍玉にあげて、ハローワーク職員の6割にのぼる「官製ワーキングプア」の問題は一切無視しています。この異常なマスコミ報道と人事院勧告というのはいったい何なのでしょうか?

マスコミが繰り返す「公務員賃金が高い」という公務員バッシング報道は、この「官製ワーキングプア」問題を一切無視した形で行われています。民間企業は「正規職員+非正規職員」の平均賃金なのに、公務員の方は「正規の公務員」だけで比較して、「公務員賃金は高い」と報道しているのです。ここでも「官製ワーキングプア」の問題を一切無視した報道が繰り返されています。

あわせて、いくつかのデータを紹介しておきます。

▲上の表は私が総務省資料から計算して作成したものです。上の表にあるように、官製ワーキングプアの状態に置かれている国の行政機関で働く非常勤職員は7万人近くにのぼっています。とりわけ、労働者の安定した雇用を守ることが役割である労働行政を担う厚生労働省において非正規雇用率が47.1%と半分近くになっていることは異常です。これが労働行政の各分野でどうなっているかというと以下のようになります。


左のグラフは、厚生労働省による「主要先進国の職業紹介機関の体制」の国際比較(▲最初に紹介している表)をもとに私が作成したものです。失業者数に対する日本の職業安定所職員数はイギリスの12分の1です。非常勤職員を加えても日本はイギリスの5分の1以下です。そして、日本の職業安定所の非正規率は6割にもなっています。

左の労働基準監督官のグラフは厚生労働省の資料から私が作成したものです。グラフにあるように、日本の労働基準監督官は、今でもドイツの3分の1しか人数がいません。労働基準監督官の1人当たりの最大労働者数はILOの国際基準で1万人と定められているのですが、今の日本の労働基準監督官はこの国際基準の3分の1しか職員数がいないのです。日本の労働者の働く権利は、国際基準の3分の1しか保障されていないと言えるような実態にあるわけです。

 

 

 

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それから、▲上のグラフは私がOECDデータから私が作成したものです。グラフにあるように、日本の公務員・公的部門職員の人件費6.1%は世界最低で、デンマーク18.3%の3分の1、OECD32カ国平均10.6%の6割程度に過ぎません。公務員人件費が財政赤字の原因であるかのような言説がありますが、公務員人件費が最も高い北欧諸国の財政赤字の方が少ないという事実によってデタラメであることが分かります。そして、▼下のグラフは私が政府資料から作成したものです。グラフにあるように、日本の国家公務員数は減らされ続けていますが、逆に国の借金は増え続けています。

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▲上のグラフにある減り続ける国家公務員数は、「正規の国家公務員数」です。これに、最初に紹介した非常勤職員数が加わった人員で、日本の国家行政機関がまわされているわけです。たとえば、労働行政分野を考えるだけでも、ブラック企業の跋扈などで、厚生労働省の窓口への労働相談は増え続けています。労働行政への需要は年々増え続けているのに、それを担う「正規の国家公務員数」は年々減り続けているのです。その穴埋めを政府・厚生労働省は、非常勤職員=官製ワーキングプアで行っているわけです。ブラック企業は儲けのために労働者を劣悪な労働条件で使い捨てるわけですが、政府・厚生労働省は労働行政への需要に一定の辻褄をあわせるために労働者を劣悪な労働条件で使い捨てているのです。これが「ブラック公務」でなくてなんというのでしょう。こうした厚生労働省が「ブラック公務」状態にあることの問題については、次のように国公一般すくらむブログで何度か紹介しています。

◆そりゃあんまりだ!ハローワーク職員は官製ワーキングプア

◆求職者に仕事紹介するハローワーク非常勤職員2,200人が失業-理不尽な官製ワーキングプアの実態

◆ハローワーク職員1,200人を年度末雇い止め-公募方式が拍車かける官製ワーキングプアの雇用不安

それから、「連合通信・隔日版」(2014年9月25日付No.8886)が以下の報道をしていますので最後に紹介しておきます。

〈全労働大会〉 労働行政の変質許さない

労働法制の改悪などとは別に、既に労働行政内部で劣化しつつある分野がある。全労働大会(9月18~20日)では、代議員から目の前で進行する事態への憤りと打開に向けた決意が多く語られた。

●求職者の信用も喪失/非常勤職員への公募制度

熊本の女性非常勤職員はこう述べた。

「職場内外の人間関係がボロボロになり、精神的にとてもつらく、過酷な状況で業務をしています。政府・厚労省による非人道的な扱いであり、国による大々的なパワハラです。労働行政の恥です」

会場はこの訴えにシーンと静まりかえった。

女性が告発したのは、相談員ら期間業務職員に対する厚生労働省と人事院の対応だ。3年間は更新が可能だが、その後も働き続けるには4年目の「公募」を経なければならない。場合によっては3年未満でも公募に掛けられるケースがある。明確な採用基準がないなかで、職場内では疑心暗鬼がまん延する。だれが残れるのか、なぜなのか、それをめぐり人間関係が壊れていく…。

彼女は残れたものの、公募に応じて採用されなかった求職者からは「結局出来レースでしょ」と非難されたという。ハローワークが大切にすべき求職者の信用を失ったのだ。

公募になれば、3年間の実績と経験のある非常勤職員が採用される確率が高いのは当たり前だろう。3年でコロコロ人を入れ替えていたら、行政サービスの質は維持できない。

同じ熊本の組合役員はこう訴えた。

「なぜ公募なのか。非常勤職員の勤労権はどうなるのか。公募によらずに(再)採用すべきだ」
全労働本部は「欠員が出たときに公募するのは分かる。だが、本人が希望し仕事もあるときの公募はおかしい」と指摘。今後もさらに打開に向けて努力することを約束した。
【「連合通信・隔日版」(2014年9月25日付No.8886)より】

 

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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