STAP細胞問題の背景にある「短期的な成果主義」「追い詰められている研究者」:研究者1千人アンケート

  • 2015/11/3
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昨夜の報道です。

小保方晴子氏の博士号を取り消し 早稲田大
朝日新聞 2015年11月2日23時01分配信

早稲田大は2日、2011年に授与した小保方晴子・理化学研究所元研究員の博士号の取り消しが確定したと発表した。博士論文に不正行為が見つかった後、書き直すための猶予期間を設けて教員が指導したが、期間内にきちんと訂正できなかったためという。

(※以下は、2014年6月17日にYahoo!ニュースに書いたものですが紹介しておきます)

私は国立研究機関を担当しています。今週の金曜日(2014年6月20日)、つくば国際会議場で、「第32回 国立試験研究機関全国交流集会」(略称=国研集会)を開催するのですが、私はこの国研集会の事務局を担当していて、いま準備を進めているところです。その準備のひとつに研究者等アンケートの取り組みがあります。1,069人の研究者等からアンケートが集まっていて、その結果は集会当日、発表することになっています。

今回の国研集会では、とりわけ国立研究機関である理化学研究所を舞台に「世界の3大不正のひとつにまで認知されてきた」とも言われているSTAP細胞問題と研究者の社会的責任について、サイエンス・サポート・アソシエーション代表の榎木英介氏に講演いただいた後、研究者・研究機関の社会的責任について研究現場から検証します。ここでは、いま私がまとめている研究者等アンケートの一部を紹介したいと思います。

STAP細胞問題の起きた一番大きな背景は「短期的な成果を求める評価主義」

 

上のグラフにあるように、「理化学研究所のSTAP細胞問題は、どのような背景で発生したと思いますか?(上位2つまで選択可)」という設問に対する回答結果は、「短期的な成果を求める評価主義」が30%で一番多く、次いで「大学院や研究機関でも若手研究者教育の不備」16%、「研究者間のコミュニケーション不足」14%、「研究機関の不適切なマネジメント」13%、「研究機関のコンプライアンスの欠如」11%、「外部資金に依存する研究体制」5%、「投稿論文のピアレビュー制度の欠陥」3%、「研究に対する社会からの過度の期待感」3%となっています。また、「STAP細胞問題への対策も含めて、研究環境の改善のために今後どのような方策が必要だと思いますか?(上位2つまで選択可)」という設問に対する回答結果は上のグラフのようになっています。

それから、「STAP細胞問題の背景と対策、今後の研究環境改善に向けた方策について自由にお書きください」とのアンケート自由記入欄への現場研究者の回答の一部を以下紹介します。

STAP細胞問題の背景と対策、今後の研究環境改善に向けた方策について

◆不安定な処遇と過度な成果主義が原因だと思う。特に若い世代の不安定な処遇をなんとかしないと同じ事が起こる。

◆高インパクトファクター誌を重視する過度の業績評価主義が根幹にある。このような評価そのものを見直すとともに、若手研究者、ポスドクの雇用問題を解決する必要がある。

◆世界的にインパクトの高い研究成果を誰よりも早く数多く出すことだけが研究者の価値だと考える組織の問題。今後コンプライアンス強化という名の雑務がますます増加して研究に費やす時間が減る一方で、成果主義は変わらないため、エラーや不正が増えていくと思われる。

◆人員不足によって各人の業務に余裕がなくなり、十分なコミュニケーションと若手教育ができなくなっている。適切な研究環境を維持するためには十分な人員を配置し、余裕を持って研究できる環境を整えるべき。今後の影響は不明だが、人員不足は解消する見込みがないため同様な問題が再発すると予想される。

◆独立行政法人の場合は定員がありながらも業務が膨張し、正規職員だけでは対応できないため契約職員を大量に雇用して運営している現状ではあるが、契約職員は改正労働契約法により将来の我が身が安定せずに十分に仕事に打ち込むことが難しいように感じる。国等が必要と認める研究を行うのであるから、十分に業務を遂行するために定員を増やすなど、研究機関ごとに実状にあった運営が出来るようになれば、若い人もうんと活躍できるのではないか。

◆一人だけでなく、その周りも、多くの研究者が追い詰められているからこのような問題が起こるのだと思う。明日の生活も危うい状況で自分を律することができるだろうか。

◆大きな枠で言えば、近視眼的で過剰な成果主義がもたらしたものだと思います。

◆研究を市場原理で管理するのが最も効率的、という考え方から生まれた当然の帰結。ノバルティス・ファーマの論文問題も同じ。研究は「効率」とは相容れない、ことへの広い理解が必要。

◆現在の日本の研究者は、上の人も下の人も「評価」という言葉に翻弄され、委縮しています。その軸が「研究成果」であるのは正しいのかもしれませんが、それを「予算」でカバーしようとするあまり「研究予算分捕り合戦」が繰り広げられています。本来の研究業務とは乖離したこの予算獲得ゲームに疲れ、研究意欲を失いつつあるのが現在の中堅研究者であると考えています。研究リーダーの多くは、予算と人事権で次世代の研究者を支配しています(それはリーダー自身に実力がないためです)。その結果、純粋な興味や面白さで研究をするのではなく、取りあえず業績リストの項目を増やす事が研究の目的になっています。

◆2~3年の任期でその後の採用を考える方法は間違っていないと思うが,2回3回と新らしい任期付の職を得られる保証はない。ある程度の成果を出したらパーマネントの採用を行うようなことを実現すべきである。STAPの担当者は給与は高かったかもしれないが毎年更新する契約のようであり,毎年成果をださないと雇用が継続されないとなれば、あせるはずである。

◆理研の研究者は雇用が安定せず、高収入にも関わらず不安定のため成果を急ぎあのようになったのではないか?

◆任期付制度の弊害です。

◆理研の環境によるものが大きいのでは? あまりにも競争主義的、短期成果至上主義的運営を「センター」に対して実施したことで発生したと思われる。このような運営は文科省の指導の下に行われているため「国民に対する領収書」作りを強要させすぎたためではないか。今後は事態の沈静化を図り、表層的な対策がとられ、余計な仕事が増える事を懸念している。

◆生物資源分野、特に特許案件の多い医療に関連した分野での事件なので一般化は難しいが過度の成果主義で研究者のモラル低下があったように見える。今後の影響として科学コミュニティに対する社会からのチェック体制が厳しくなるだろうし、マスコミ主導の的外れな批判が増えることが危惧される。

◆研究者の流動化、任期付き雇用の促進のマイナス面が表れたのではないか。

◆問題が生じたとき、内部委員会と外部委員会が作られるが、どちらも任命者が同じ(または国民からは同じに見られ)である。結論として、下位の者が責任を取らされて自浄作用が働かない。独立した研究を評価するまた研究者倫理を扱う法人の設立が望ましいと考えられる。

◆論文をまともに読んでいない人が共著者になりすぎている。他人の研究結果の過ちを指摘できない環境。

◆研究者の個人責任の押しつけではなく、理事長ほかの管理監督者の責任追及体制を確立すべき。

◆背景:極端な成果主義。上司のマネジメント能力不足・共著者とのコミニュケーション不足。改善方策:倫理面については、若手に限らず、研究者個々人が自分自身を律するしかない。それができなければ、研究の自由に対して組織の介入を招きかねない。

◆実験事実の確実な記録に関して体系的な枠組みも必要であると思います。研究活動は自由闊達に行うべきだと思いますが、実験事実を記録することは仮説の検証のみでなく、検証・議論を基に新規の仮説を立案する上でも大変重要であると思います。実際に行った仮説立案・実験計画・実験・検証を繰り返す一連の流れを後からどのような研究者でも追跡できるような基本的な実験記録方法を議論し、定期的な講座を開くことも必要だと思います(出来ればe-learningではなく、質疑応答が可能なスタイルが良いと思います)。記録方法のベースを作ることは仮説立案や実験計画を画一化する訳ではなく、むしろより良い方向へ繋がると思います。ミスコンダクト防止及び万一疑義が発生した場合の速やかな問題点検証にも有効にはたらくものだと思います。

◆短期的な成果を求めるシステムの重圧に耐えうる研究マネージャーの育成。

◆ヘンな研究者は昔からいる。それを持ち上げてしまったのはひとつにはコミュニケーション不足だし、ひとつには「わかりやすい成果」が求められる情勢にあると思う。研究なんて、一生成果が出ないかもしれないと思いながらもやりつづける、そういうものだと思う。「成果のでる研究だけやればいい」なんて神様みたいなことを言う連中が力を持ちすぎているのではないか。

◆対策は、任期付きポスト数の縮小、パーマネントポスト数の拡大。

◆若手研究者の育成・教育について大学・研究機関が取り組む必要がある。また、上司・同僚など周囲とのコミュニケーションを充分にとれる環境を作っていくことも重要である。

◆不安定な身分が短期的な成果を求めることにつながり、検証や実証が不十分なままに外部発表を行うことになったのではないかと考える。

◆論文数やインパクトファクターで研究を競う現状をやめるべきであろう。研究開発を根本から変えるべき。これにとどまらず予算にしばられない自由度、技術職員の給料アップなどの問題や会計制度の問題など全般に研究環境を見直す必要を感じた。

◆半期から1年単位の業績評価、予算の1年単位の執行では、公的研究機関が担うべき長期的視点での研究が困難であると思います。

◆研究に集中するのは生活のすべてを研究に打ち込むこと。生活基盤の安定が無くしてなかなかなしえない。また、ポスト獲得には成果、外部資金と競争があり、生活基盤の安定の保証がない中で賭博師に近い生活環境を強いられるなかでの重圧は計り知れない。研究は何年かけても芽が出ないものもあり、研究をするだけでも賭博に近い。その重圧の中で大きな成果を求められた結果ではなかったのだろうかと、疑問を投げかけたい。

◆対策は、過度な予算獲得競争環境およびそれに伴う研究予算の集中の緩和。

◆成果ばかりを重要視する評価主義は日本の国民性にはややそぐわないと思う。雇用の安定をはかり、生活と心身の状態を安定させた上で研究に勤しむ方が成果が上がると思う。

◆若い研究者(プロになったばかりの人)をいきなり競争的研究環境にさらすのはよくない。10年くらいは多額ではなくてもコンスタントな研究費を保証し、その間、海外留学など見識を広める機会も設けるなど、じっくり育てていくことが必要と考える。

◆トカゲのしっぽ切りでごまかそうとしても無理がある。ルールで縛り付けて支援はせず、「手柄は自分のもの、失敗は部下のもの」と偉い人ばかりが得する仕組みにしか見えない。

◆研究者の採用(リーダーのポストとか)が小選挙区型になっているために、その判定基準において科学的思考能力がそれほど重視されなくなってきている。この結果、評価される側、評価する側ともに科学レベルが低下してしまう。

◆短期の成果やインパクトを求めるあまり、例外的に取り扱いされガバナンスが欠如してしまっていると思います。学位とってすぐに、リーダーはあり得ないなと思います。

◆科学の分からない役人が予算配分権を握っているので、予算獲得のために分かりやすいスタンドプレーをする研究者が出てくる。科学の素養のある人間を科学技術政策の権限の中枢に配置すべき。

◆柔軟な思考により、発想豊かな研究の必要性を求めている反面、論文至上主義による評価しかできない現行制度により生じた問題。論文数による評価は簡単だが、それ以外での業務貢献についても、建前だけでなく十分評価すべき。

◆学会発表でも、むやみに博士課程進学者を増やしすぎで、大学・大学院での研究教育・指導が不十分と思われる例を見る。また、増えた博士を受け入れる安定ポストが足りない。適正な博士課程進学者数に対して、十分な教育・指導を行い、安定なポストを用意することが必要である。

◆背景は、短期的な成果主義の追求と評価、過度な外部資金の獲得と成果主義

◆STAP細胞事件だけでなく、政府や本省出向者の「選択と集中」、競争資金重視の結果として多くの問題が発生しているのに、問題があると末端の研究者・事務職の個人的な倫理の問題にすり替えるのは極めて問題。(1)研究資金の広い配分。1億円の資金を得た人が会議ばかりで研究ができず、兵糧攻めにあった研究者も実験ができず、両方とも不幸な状態にある。また研究不正や疑惑は多額の研究費を得た「勝ち組」で多く発覚、単にその研究成果がなくなるだけでなく、そこに多額の資金を出して他につけなかったことで多くの研究分野、多くのシーズ研究が犠牲になり、科学技術の発展を阻害している。総額がたとえ微減でも多くの人にいきわたるようにすることが大事。(2)研究については研究者がレビューし評価する方向へ。2年任期で論文レビューを全くしたことがない人が中心に決める体制を廃し、研究者・専門家のピアレビュー中心にすることが必要。(3)いわゆる選択と集中の全面見直し。多くの人に最低限の実験に必要な予算を交付金として配分。評価も研究者中心にする。また、それを推進して来た人の責任追及と、推進してきた企画部門の予算・人員縮小。評価部門の縮小。(4)特に若い研究者が、早くパーマネントのポストを得て、かつ最低限の実験予算が競争資金申請でなく交付金配分などで継続的に得られ、安定的に仕事ができるようにすることが必要。

◆若手研究者の雇用の安定が必要

◆私学の劣悪な教育環境(一指導教官に数十人の学生)や大学教員の忙しさを改善すること。論文さえ出れば何をしても良いという考え方の改善(今回の事件が良い反面教師となれば良いのですが)

◆若手研究者の未熟さもさることながら共同研究者や上司の責任も重い。記者発表のやり方など、学会によって評価されるべき内容を社会一般にアピールしたのも良くない。研究所(当独法もだが)で人を育てる環境にないことも露呈した。日本の研究所がレベルが低いこと、大学教育がなっていないことが疑われてしまった。

◆実験ノートの取り方など大学で身につけておくべき最低限の教育がなされていなかった。又、画像の加工や使い回しなど研究者のモラルが低いことが露呈した。世界的に見て日本の科学研究の信頼性が揺るがされていると思う。研究機関は研究者の管理を厳しくする方向に動くのではないか。自由な発想による研究がしづらくなるのではないかと懸念する。

◆研究予算を継続して確保して、研究を支えてくれるスタッフの雇用を確保しなければならない、大きなプレッシャーが最大の原因ではないか。本件は中心研究者の経験不足で大きく踏み外したのではないかと思うが、機能性研究などの上記プレッシャーが大きい分野では似た事件は多いと思う。

◆小保方さんの個人的な特性が問題の主原因だと思うが、本質的な問題は根が深い。「研究者になるための教育を大学からちゃんと行う」ことしか解決できないと思うが、果たして「ちゃんと教育」できる人間がどれだけいるだろうか? 我が国の科学技術政策の根本から見直す必要があろう。まず、ちゃんとした指導者を育てなくてはいけないが、数十年はかかるだろう。

◆同じような問題は短期的な成果を求められる現状では今後どこでも起こりうる。

◆論文数や資金獲得の数で大きく変わる待遇内容をなんとかしなければならない。地道だけど公立研究所としてやるべき課題をもっと大切にすべき。

◆研究者個人及び研究機関が短期的な評価によって左右されるようになってきているため、成果を焦る傾向が強まっている背景が影響したように感じる。

◆理研にはSTAP細胞と同等の非常に質の高い研究成果が出ているが、あまり宣伝していない。特定国立研究開発法人へ移行するための過度な広報活動に原因があると思う。

▼関連記事
STAP細胞問題とブラック企業化する特定国立研究開発法人-裾野削り地盤沈下する日本の科学技術

▼参考
『KOKKO』第3号
[特集]疲弊する研究現場のリアル
〈座談会〉悪化する研究環境と
     ポスドク若手研究者の無権利
川中浩史 学研労協事務局長/産総研研究者
大高一弘 全通信研究機構支部副支部長/情報通信研究機構研究者
国立研究機関で働くポスドク当事者
榎木英介 科学・技術政策ウォッチャー
ほか

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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