「戦争法」は雲の上の話ではなく日本の労働者にとって「仕事の意味が変わる」ということ|島本慈子著『ルポ労働と戦争 – この国のいまと未来』

  • 2015/10/12
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※上の写真はクラスター爆弾の被害者となった子どもです。破片が飛び散り身体に食い込むのです。生き残れれば幸運というくらいです

(※2009年4月に書いた古いものですが、「戦争法」強行下、武器輸出開発の強行下で、この「労働と戦争」の問題は日本の労働者が日々直面する現実としても噴出して来るのではないでしょうか。「戦争法」とは、どこか遠いところの話、雲の上の話ではない。それは「私たちの仕事・私たちの暮らし」の問題なのですから)

 日本は憲法9条で軍隊を否定しながら、自衛隊という軍事力を持っている。この現実のねじれは、「専守防衛」というキーワードで正当化される。日本は不正な侵略を受けたときに限って武力を行使するのであって、保有する兵器を外国で使うことはない、と。

 これを引っくり返せば、9条が消えれば専守防衛というキーワードも消え、「外国で兵器を使うこともありえる」ということだ。

 日本の自衛隊が2006年度までに調達したクラスター爆弾は、約23%は米国製だが、残り約77%は「国産」だった。

 この日本の中で、日本の労働者がクラスター爆弾をつくってきたのである。

 クラスター爆弾については、日本政府はクラスター爆弾禁止条約の受け入れを表明し(2008年8月)、現有のクラスター爆弾は全て廃棄し、不発率が低い新型爆弾に置き換えていくことになった。しかし、9条が消える→専守防衛が消える→自衛隊が外国で日本製の兵器を使う=日本の労働者の仕事が外国での戦闘を支える、という構図に変わりはない。

 つまり9条改憲とは、日本の労働者にとって「仕事の意味が変わる」ということである。

 9条改憲とは、どこか遠いところの話、雲の上の話ではない。それは「私たちの仕事・私たちの暮らし」の問題なのだ。

上記は、ジャーナリストの島本慈子さんの著書『ルポ労働と戦争 – この国のいまと未来』(岩波新書)の中の一節です。

「若い人がどういう思いで兵器をつくっているかというと、兵器というのは最先端の技術なんです。そういう意味では非常にプライドのある仕事なんです。ところが、その誇りは何で支えられているかというと、『国を守る』ということですね。だから『守るものならいいが、侵略するものはだめだ』と、はっきりそうは言わないけれど、そんな意見があるのは間違いない。ところがそういうことを議論していると会社の内部がガタガタになりますから、それをいろいろな方法で押さえこむ。職場で自由にものが言えないわけですから精神障害の疾病がぐ~んと増えました、ここ2、3年」

これは三菱重工の労働者が語ったものです。島本さんは本書の中で、様々な労働と戦争とのかかわりを紹介しています。そして、国公労連の仲間である気象庁で働く職員を組織する全気象労働組合(※現在は国土交通労働組合)を、本書の中で紹介しています。「天気予報が消えるとき」と見出しが打たれ、全気象が登場している部分を、以下要約して紹介します。

戦争が始まると、気象情報は軍事機密となり、軍の統制下に置かれ、気象電文も暗号化され、気象情報は一般市民には知らされない。気象災害による国民の被害が甚大なものとなる。

日本は1939年、軍用資源秘密保護法によって、気象情報を「保護すべき秘密」のひとつに指定。1941年12月8日、真珠湾攻撃の当日には、中央気象台長が陸海軍大臣から気象管制を命じられた。この日からラジオの天気予報も消え、「台風が近づいても警告はない」「大地震が起きても被害は報道されない」という日々が続いていく。

1941年12月の真珠湾攻撃に際し、日本軍機動部隊の司令部はハワイ・ホノルル放送の天気予報を聴取して参考にした。1944年6月、ノルマンディー上陸に際し、連合軍は現地の天候を熟慮して、「月明かり・潮の干満」などから上陸作戦開始日を決定した。

それぐらい気象は重要な軍事情報だから、気象情報は敵から隠さねばならず、したがって戦争になれば、自国民に向けて天気予報を流すことも制限される。第1次大戦のときも、第2次大戦のときも、多くの交戦国で気象管制が行われた。

そういう状態のなか、1942年8月、九州から近畿地方に台風が襲来。不意打ちの台風に襲われて、被害は「死者891人、行方不明267人、負傷者1438人」という甚大なものとなった。翌1943年7月には、再び九州と近畿を台風が急襲し、「死者211人、行方不明29人、負傷者231人」にのぼった。続けて9月にもやってきた台風で、九州と中国地方に「死者768人、行方不明202人、負傷者491人」の大被害が発生した。国をあげて戦争をしている状態のなかでは、災害を防ぐことより、軍事機密を守ることのほうがはるかに重要であり、災害の死者は「やむをえない犠牲」とみなされたのである。

戦争がハイテク化した現在も、気象条件はやはり重要である。イラク戦争でも、イラクで吹き荒れる激しい砂嵐で、米英軍の作戦行動は大きな影響を受けている。

戦争になると、各国も気象データの配信を中止する。現在、地上データ、高層データなど、同時間帯に全世界で観測し、配信されるが、湾岸戦争やイラク戦争では中東のデータが配信されず、「空白の天気図」となっていた。

世界各地で行われる高層気象観測のデータは毎日の天気予報に欠かせない。日に2回、英国グリニッジ標準時の「0時・12時」に合わせて、地球上の約900地点でいっせいにラジオゾンデが打ち上げられる。日本でも韓国でも北朝鮮でも中国でも、気象関係者が同時にゾンデを打ち上げる。その観測で地球を取りまく高層の大気の流れを把握することで、台風の進路予測も可能になる。どの国も一国だけでは天気予報をすることができず、もし中国から観測データが入ってこなくなったら、日本の天気予報はたちまち精度が落ちる。それは中国にとっても同じである。

現在の日米安全保障条約に基づく日米地位協定第8条には、日本政府は「次の気象業務を合衆国軍隊に提供することを約束する。(a)地上及び海上からの気象観測(気象観測船からの観測を含む)(b)気象資料(c)航空機の安全かつ正確な運航のための必要な気象情報を報ずる電気通信業務(d)地震観測の資料(地震から生ずる津波の予想される程度及びその津波の影響を受ける区域の予報を含む)」とある。これに基づいて、日本の気象情報はすべて在日米軍に提供されている。

自衛隊がどこの紛争地域にでも送られることになれば、もしいまの自衛隊の気象部隊だけで任務が遂行できなければ、気象庁職員も派遣されるかもしれない。派遣される自衛隊以外の公務員・民間人は気象関係、医療関係と報道されたこともある。

私たち全気象労働組合の任務は、「気象災害から国民の命と財産を守ること」と綱領に定めている。戦争になれば気象情報が軍事機密とされることからも、戦争に反対する。

戦争になれば私たちの仕事が軍事行動に利用されることになる。気象には国境がなく、気象事業は平和の上に成り立つもの。私たちは戦争のために働くのではなくて、国民のための気象事業確立に努力したい。

以上、島本さんが全気象を紹介した部分でした。これに続けて、島本さんは「加えて、戦争は最大の環境破壊」をもたらすとして、生物学者のロザリー・バーテルの著書『戦争はいかに地球を破壊するか – 最新兵器と生命の惑星』を紹介しています。

「イラクにはもろい不毛の砂漠地域、多くの小動物のすみかがある。砂漠の土壌は、微生物の生存している薄い層、短命な植物、塩、沈泥と砂の共存によって維持されている。このようなシステムが戦車戦から回復するのにどれくらい長い時間を要するのかを、私たちは経験から知っている――第2次世界大戦中、北アフリカ砂漠の戦争は砂嵐を10倍も増やしていたのだ」

「たとえ戦争が起こらないとしても、兵器開発の実際の過程は人と環境に有害な影響を与えうる」

「地球規模で、軍はかなりの量の土地を取りあげて、基地、実験場、毒性廃棄物の投棄場、モーター修理場、環境を汚染するその他の活動に使っている。廃棄物の多くは容易にリサイクルされず、環境汚染の影響は何千年もの間続く。さらに、軍は、燃料、アルミニウム、銅、鉛、ニッケル、鉄鉱などの供給が限られている金属の相当量を使う。(中略)戦車のような重い兵器は土地の圧縮を引き起こす」

「1945年から63年の間に行われた300メガトンの核爆発がオゾン層を約4%減少させた」

たとえば、戦闘機と民間航空機では、エンジン開発の発想がまったく違う。体を鍛えたパイロットがぎりぎり耐えられるG(圧力)の限界のところでいかに瞬発力を出すか、戦闘能力を上げるか、その極限を追求していくのが軍事の仕事。それは、民間航空機のエンジン開発者が「音を静かに、排気をきれいに、燃費を効率よく」と考えるのとは、あるで方向が違う。

島本さんはこの章の最後にこう綴っています。

この時代とは、「軍事に頼った安全保障には限界がある」ということを、母なる地球が静かに語っている時代ではないか。日本も戦争をする国へと踏み出すとき、新たな環境破壊の戦列に加わることは確かである。

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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